小田和正「22分50秒」


・・・・「小田和正クリスマスの約束2009」を観た。
今回は、21組の歌手が集まり、それぞれの持ち歌を1曲ワンコーラスずつ出し合って、それをみんなで「合唱」しようという企画。We Are The Worldに迫る、なかなか大企画である。


■番組オフィシャルページ
http://www.tbs.co.jp/program/christmaslive_2009.html


出演者一覧を見てもらいたい。これだけのアーティストに、趣旨を伝え賛同を貰い、スケジュール調整し、何度かリハーサルに来て貰い、意思を統一して本番まで持って行く。その「人の調整」だけですごいことだ。たかが5〜6人の忘年会の幹事すら、引き受けるとキーッとなるのに。その労力は考えただけでうんざりする。小田氏はこの企画を、夏頃から準備していたらしい。ミチミチとメールを打って細かい根回しする姿が映ったが、還暦を超えた日本の最ベテランミュージシャンが、何故今更、こんな面倒くさい、しかも青臭いことを、番組企画とはいえやろうとしたのか。番組を見終わった今でも、ちょっと解らない部分がある。


まず核となるミュージシャンを何人か集めて「小委員会」なるものを作る。小田の他にスタレビ根本要スキマスイッチの主に大橋、それと若手ではいきものがかりの、歌手の吉岡きよ恵ちゃんの他に作曲の水野が参加する。この大橋と水野が、小田になかなか辛辣な意見を言う。「趣旨はどこになるのか」「合唱だと個性が消えちゃう」「それぞれソロで歌った方がカッコイイ」と、企画の根本否定すら容赦なくぶつける。ここは観ていて実に頼もしかった。小田は「理屈じゃない。とにかく皆でワッとやってみろ。その先に見えるモノが絶対にあるから!」と譲らない。強固な一枚岩にはなれないまま、リハーサルが始まる。


しかしそこは、ミュージシャンなんだねーー。なんだかんだ言って歌うのは大好き。他人の曲も皆で声を出してみると気持ちが良いし、成果も積み上がってくる。と、若手連中も納得し、リハが進んでいく。その間小田は、22曲メドレーのアレンジ、曲の順番をどう繋げ、どうもっていくのかを考えながら、修正を加えながらの裏方作業もこなし、リハでは指導・指揮もやると。八面六臂の活躍。ねーー。すごいですよこれは。もちろんスタッフはいるけど、やっぱり頭は小田がやらなくちゃいけない。バンド経験者の自分にはこれは、非常〜〜〜に身につまされる思いでした。


で、本番。タイトルは、メドレーの演奏時間をそのまま取って名付けた「22分50秒」。予想に違わぬ迫力で、素晴らしいモノでした!! 終わった瞬間、もう皆が号泣(TT)拍手が、5分以上なり止まなかったんじゃないかな。若手も中堅もベテランも、互いに肩を抱き合うシーンは、そう、高校野球の優勝チームのよう。小田はこれを求めていたかもしれない。音楽・歌のもつ、理屈じゃない「体育会的」な感動。これを、お客さん含めた皆と、共有したかったのだ。


ポップ音楽は、楽曲制作作業が中心となり、地道で暗い。ライブはその楽曲の「再現作業」となり果て、クリエイティブさは消えた。どのみち1アーティストの閉鎖的な作業だ。コラボ企画やジョイントライブなども時々あるけど、こーんなに集まって合唱する機会は、まずない。チームプレイで皆で「力を合わせて・声を合わせて」という体験が全くないと、音楽としても、人間としても(聴く側もやる側も両方)何か大事なモノが、抜けてしまっているんではないか。小田はそれを、今の手中に取り戻すために、この大合唱企画を、やったのではないか。今はそう考えています。


ただ、これがもしCDなりDVDなりになって、繰り返し再現作品として観たいか聴きたいかというと、そこは微妙なんだよね。やっぱりお祭りって感じがする。だから、まだ私にも、小田氏の気持ちは、本当のところは解ってない部分が、あるのかもしれません。