ビリー・ホリデイ“ろくでなし”の恋

国営BSで「ビリー・ホリデイ“ろくでなし”の恋」という番組をみた。伝説の女性ジャズ歌手ビリー・ホリデイについて、関係者のインタビュー証言テープをもとに、男性遍歴にスポットをあてて構成していった伝記だ。


「なんて歌だ!」久しぶりに、あらためて聞くこの伝説の歌手の歌声は、いいとか素晴らしいとか、単純にそんな事は言えない。黒人のブルースがベースになった哀感だが、そんな悲しみとか感動とかいう言葉すらよせつけない。ガサガサしてトゲっぽい声の行間に、悪魔的というか、暗さを通り越した「漆黒の虚無空間・沈んで帰って来れない底なし沼」が広がる。こんな歌は、一生のうちそう何回もは聞きたくない。でも聴くたび、金縛りにされてしまう・・。


世の中には、こんな音楽もあるのだね。


戦前のアメリカの黒人社会の最貧民層で、父親もなく育ち、母親は売春婦で家にすら帰らない。まともな愛情など受けたこともない。十代前半からそれこそ「どろどろの恋愛と性暴力体験」をし、そんな世界しか知らない。強烈な心の渇きは毎夜、男で埋めるしかない。しかし本当の愛し方愛され方が分からない。だって彼女は、子供の頃から一度も、本当に愛された体験をしていないから。彼女は言ってみれば、心の奇形児だった。ろくでなしの男に騙され続けてもなお、また同じような男に引っかかる、その繰り返し。やがて酒と麻薬に溺れていってしまう。


こんなボロボロの人間が、深い深い歌で、人のこころを感動させていく。皮肉な運命。後世の私達は残酷にも、その彼女の破滅的な人生をも裸にして、しゃぶりつくしてしまう。


詳しく知りたい方はウィキペディアの「ビリー・ホリデイ」の項を。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%93%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%83%BB%E3%83%9B%E3%83%AA%E3%83%87%E3%82%A3