避難所日記その5

●避難所日記その5


避難生活に疲れてきたある日、マッサージ・整体院のN先生が慰問治療に来てくれた。


この先生は、私は会ったことがなかったが、長年地元で開業している。先生自身も被災者で避難しているはずなのになぜ? とお伺いしたら「避難先がたまたま実家がある町で、私は避難所を出て、そこにやっかいになっている」とのこと。「お店を出させてもらっている町の人の、少しでも役に立ちたい」と思って、いくつかの施設に分散した町民のところを、毎日交代でまわっているんだそうな。


で、この先生には、双子の弟さんがいる。その方が、なんというか「精神薄弱」の身障者なのだ。お顔がそっくりなのだが、体の発育も異常に小さく子供の背丈ぐらいしかない。でもおとなしく、いつもニコニコ笑って、ちょっと疲れるとコロンと眠ってしまう可愛らしい方でした。整体の先生は「性格ははるかに私より弟のほうが人徳者。いつも教えられる」とおっしゃる。


弟さんはいつもは、わが町にある精神薄弱児施設に入居しているはず。当然そこも全員避難勧告で移動になった。私のイトコもそこ保父さんをしているが大変である。一度避難先で会ったが「入居者と指導員と、全員でカンズメ状態。特に洗濯ができなくて困って、今20人分の洗濯をしにコインランドリーまでワゴン車でいくんだ」と言っていた。「なかなかに地獄だったよ」と、まだ若いイトコは笑っていたが。


震災で割を食うのは、いつも年寄りと身障者です。それを支えるのも、結局は被災者自身です。


N先生は、うちの体育館でもたっぷり半日、お年寄りのマッサージをして、日が暮れてから帰っていきました。きっとうちのイトコのもとへ、弟さんを送って行ったのかもしれません。