探検ロマン世界遺産・ブラジル

■国営放送「探検ロマン世界遺産」ブラジル・サルヴァドールの巻、を観た。
http://www.nhk.or.jp/sekaiisan/card/cardr083.html

この町は私の憧れの町のひとつ、サンバ音楽が生まれた町である。黒人奴隷貿易の市場があった港町で、アフリカから連れてこられた黒人たちは、必ずこの港に陸揚げされた、悲しい歴史の町である。

ドキュメンタリーは、この町で孤児やワケアリの子供達を引き取って育て、サンバの打楽器を教えている、一人のおじさんと子供達の姿を追ったモノになっている。親が麻薬中毒育児放棄された子供、継母と折り合いが悪く逃げてきた子供。みなそれぞれ不幸な貧しい子供達ばかりだ。そんな子供達に、おじさんはサンバを教え、皆で結束して演奏すること=協力・思いやり・愛することを教えている。2月の謝肉祭(カーニバル)のパレードで演奏するのは、彼らの最高の晴れ舞台。ところが市当局は、外人観光客向けに、小綺麗な身なりで、ある程度の水準までショーアップされた演奏を聴かせるバンドが優先され、彼らのような最貧民街の子供達のバンドは、カーニバルへの出場さえ難色を示される。はてさて、子供達とおじさんはどうするのか? というもの。

ストーリーもなかなか感激するし、おじさんと暮らす子供達が「今はここが私の家・私の家族だから」と語る姿は胸を打つ。それも素晴らしいのだが、やはり自分は音楽。現地の本物のサンバが、それはそれは素晴らしい。激しい打楽器アンサンブルのビートが延々と繰り返され、ビートに身を任せて踊れば、一種トランス状態に陥ってしまう。もともと宗教的な意味合いもあり、白人が悪魔と恐れ弾圧さえしたその音楽は、現代のポピュラーミュージックの原点、あるべき姿だと思う。アメリカ南部の黒人社会から生まれたブルースやゴスペルもそうだが、社会の最下層の、一番虐げられた黒人達の中から、こんなにコクの深い音楽が生まれたことは、まったく不思議である。このパラドックスは、何か人間の心のありようの一部を象徴しているように思えてならない。そのドラムのビートが、ロックやジャズの元になり、現代のポピュラー音楽までつながっていく。遠い昔、白人達にムチ打たれた彼ら黒人達は、復讐するどころか、その傷口から音楽を実らせ、世界中にビートの果実を与えたのだ。

「サンバが家族を作ってくれたんだ」といって、音楽と踊りと共に抱き合う人達の姿。ポピュラー音楽を聴き、時には作っても来た私も、改めて、音楽と向き合うときに忘れてはならない何か、を、思い出させてくれた気がした。