ポール・ギャリコ「トマシーナ」

terryyokota2006-04-22


自分の中での「活字読みモード」数年ぶりに唐突にやってきました。私の場合、小説が読みたい時期と、うざったい時期が交互に波のように来るのですよ。今回もいつまで持つか分からないけど、続かせなくちゃね。理想は波を無くし、常に何らかの本を読み進めていることなんですけどね。

で、何を読んでいるかというと、アメリカの作家ポール・ギャリコの作品です。(執筆はイギリスで行っていたらしいので、イギリスの作家と言った方がいいかもですが………)、高校時代に「スノーグース」と「ジェニィ」を読んで以来、主要作品を是非網羅したいと思っていながら、ついつい今まで来てしまった。が、今回、人に「ジェニィ」を薦めたせいもあり、せめて文庫で入手可能な分ぐらいはインプットしておこうと、6冊ほどまとめて買った。その1冊が「ジェニィ」と並ぶ、作者の猫ジャンル(?)の傑作「トマシーナ」。これがまたよかった(TT)

ジェニィが、冒険を通じて成長と優しさとを描くのに対して、こちらはエゴイズムとキリスト教的信仰愛にまで踏み込んだもの。性格がまったく違います。

主人公・獣医のマクデューイ先生は、獣医のくせに動物嫌いで、奥さんを亡くしたせいもあり、頑固で冷たくエゴイスト。でも娘のメアリ・ルゥだけは可愛がっていました。ある日、メアリ・ルゥが可愛がっていた猫のトマシーナが病気になってしまいます。日々の忙しさも手伝って、マクデューイはトマシーナを安楽死させてしまいます。愛する猫を奪い殺されたショックで、失語症になってしまう娘メアリ・ルゥ。心を閉ざし、日に日に衰弱していく娘を前に、自責の念にさえ気づかないマクデューイ、さて、どうなるのか・・・。というお話。

作品が書かれたのは1957年。ですが失語症・親と子の心理学的な問題を扱い、現代になってなお新しい価値が出てきました。少子化が進み心理原因による少年犯罪が増える今、子供が本当に大切にしているこころを、どれだけ親がわかっているか。はっとさせられます。

作者の構成力も見事です。人間目線の物語と猫目線の物語とを交互に織りまぜ、あーもうだめか、というぎりぎりまで物語を引っ張っていきます。物語途中の猫目線編で、急に口調(文調)が変わる節が出てきて、読み手は違和感を受けますが、それすらも最後への布石なのです!

キャラクターも見事。人間に限らず、猫も、草木や自然の描写にも、作者の愛情がひしひし感じとられます。テーマである神と信仰の問題も、平易な会話ですごい内容を言っていたりして、考えさせられます。

エゴイスティックな主人公マクデューイが、女神様的な女性・ローリと出会って変わっていく。そして衰弱していくメアリ・ルゥはどうなってしまうのか・・・ラストもいいですよ〜〜!

他にも数冊買ったのを、まだまだ読まないトネ。
追記:「アマゾン」で何故か、この本の表紙画像がないので、上げておきます。