意志のチカラの金メダル

Triumph、という英語があります。勝利の意味ですが、Victoryよりももっとすごい、圧倒的大勝利だと、どこかで習った記憶があります。(勘違いならごめんなさい)

トリノ五輪女子フィギュアスケート荒川静香選手の金メダルは、本当にこの「Triumph」と言う言葉がふさわしいと思いました。中継をみていてトリハダが立ちましたし感激しましたが、その感激が、表面的な情熱ではなく、何かこう、地の底からわき起こってくるような、ぐおおーーっとこみ上げてくるような、何とも言えないチカラを感じた感動でした。

「冷静だった」「欲を出さなかったのが良かった」「楽しむことだけ考えていた」と本人も言っています。クールビューティーと言われる彼女らしいコメントです。実際、演技をひとつひとつ丁寧に、念を押すように進める様子が分かりましたし、とっさの機転でジャンプを安全なものに切り替えたりとか、そいうった姿勢にももの凄い、厳しいまでの冷静さを感じました。本番で舞い上がって全然ダメ、とか、やぶれかぶれの特攻精神、とか、日本人特有のメンタリティーは、ここにはまったくありません。ひとつひとつ構築し計算し実現し、とっさの狂いもその場で修正し、目標に至る。

その冷静さを生みだした精神力、意志力がすごい。

ここまでのクールな心境に至るには、大変な日々の積み重ねがあったでしょう。猛練習に裏打ちされた技術的自信と、ガッチリ演技すれば結果は必ず着いてくるという確信が、ゆるがずドーンとあったのでしょうね。

それと、精神的な壁にぶつかって苦しんで、それを乗り越えた経験。どん底の不調から「スケートなんかやめちゃる!」とドロップアウトを試みたりとか、絶対あったはずです。陳腐に聞こえるかも知れませんが、人間どっかで一皮むける経験をしないと、絶対ここまでにの境地には行かない。本人にしか分からない地獄のジグザグすったもんだ、ですね。

目標に向かって厳しい努力を重ねる時、ただやみくもに、ではなくて、これはいらない、これは必要と取捨選択しする。周囲ともただ協調するのではなく、自分の意志を頑固に通すところと曲げて妥協するところと、考えて使い分ける。しかし決して、大きな目標は外さない。鋼鉄の「意志力」。河合隼雄先生の言葉を借りれば「父性原理」というやつですが、日本人の精神面に一番欠けている部分なのだそうです。それが、荒川選手には、あった。というか作り上げた。しかも強烈に。

今回の金メダルは、まさに取るべくして取った、「意志のチカラによる金メダル」。コーエンやスルツカヤがコケて転がり込んだフロックでは決してない! 一歩一歩やりとげながらひょうひょうとしている荒川選手は、真の金メダリストだと思います。