渡る女性の鬼コーチ

テレビ番組で、スポーツ選手をいろいろ登場させてどーのこーのするトークバラエティーが増えたように思う。プロの野球・ゴルフから、アマチュア五輪競技までいっしょくたで、内容は濃いとは言えない。が、五輪競技の選手の普通の姿とかはナカナカ見れないので、私は機会がある毎によく見ている。

昨日は師弟特集と銘打って、シンクロの井村雅代コーチ、フィギュアスケート山田満智子コーチ、そしてソフトボール宇津木妙子監督、この3人の女性「鬼」コーチが、一列にずらりと並ぶという、世にも恐ろしい(爆)企画だった。

やっぱり3人ともオーラというか雰囲気がすごい。コーチ・監督はすべからくそうだろうが、単に選手一人一人をを指導するだけではない。作戦の立案面、相手を研究しそれにどう対抗していくか、どうゲームを持っていくのか考えなければならない。それが世界レベルで要求されるのである。ましてやナショナルチームの監督ともなれば、一国の競技全体の長期強化プランまで考えを及ぼさなくてはならない場合も出てくるだろう。こうなるともう総合プロデューサーである。でっかい理想とそれを実現するチカラ、選手への細やかな愛情・ケアと人身掌握術。理想と現実、相反するモノで常に葛藤だろう。大変なことである。並の人間なら数日で体を悪くしても不思議ではない。

その中で特にすごかったのがシンクロの井村コーチの「選手をちょっと歩かせただけで、体重が減ったな、増えたな、というのが、200g単位程度の細かさで分かる」というもの! まったく、養豚取引業者でもここまではわかるまい(笑)「体重が3〜400g違うと、それだけで手のひとかき、足のひとかきの大きさを変えないと、みんなと演技が合わなくなるんです」これには絶句。「だからシンクロは、選手の体重・体脂肪率=浮力を、常に一定にしておくことが重要なんです」と。潜って息を止めて動いて、又潜って。時には12〜13時間に及ぶ練習で、消費カロリーも半端じゃない。その練習に使うカロリーを摂取し、体重維持するためには、通常人の3倍の食事を採らないといけない、といって出された食事の量にまた絶句。力士だってこんなには食べない。「これ一日で入るんですか」「いや日によって体調によっては女性ですし食べきれない時もあります。でも無理して食うのも練習のウチやいうて食べさせます!」・・・・(+<>+)

ソフトの宇津木監督もすごい。その千本ノック、打つスピードが半端じゃないのだ。1.5秒〜2秒に一球の割合で球が飛んでくる。一度に2〜3人の野手に対して練習をつけるために、監督が磨いた技術なのだろうか、下手なピッチングマシン機械よりすごい。またこれは別な番組だが、中学生ピッチャーを指導するシーンがあった。その生徒はコントロール少し不安があったのだが、「もうちょっとだけ肩をこう、プレートに掛ける足はこう…」と、監督がフォームをちょっといじっただけで、コントロ−ルは治るわ、ついでに球威まで傍目で観ても分かるくらい良くなった。一流のスポーツ指導者とはこうもすごいものなのか。素人にも分からせてくれた瞬間だった。

対してフィギュアの山田コーチの場合は、個人競技で指導もマンツーマンなので勝手が違うのだが、いまの浅田舞・真央姉妹などは、徹底的に「誉めて伸ばす」方針を採っていて、逆に伊藤みどり選手に対しては、手元に住まわせて「それこそ箸の上げ下ろしから厳しく」しつけたらしい。「舞ちゃん真央ちゃんはご家庭もしっかりしているせいか時代のせいか、性格も自然でおっとりしている。そういう子は叱りつけても萎縮してしまうだけ。みどりの場合は……境遇とか本人の性格・キャラなんだけど、雑草のように負けず嫌い。だからこっちも言いたいこと言ってやってました」という。でもね。その中間に教えていたはずの恩田美栄選手はどうしたのだろう。やはり「方針が合わずケンカ分かれ」の噂は、本当だったのだろうか(苦笑)

ともあれ、なんというか、どのコーチも「壮絶」である。求道者の魂、職人の技、そして賢老の人を見抜く直感、それを育てる忍耐・・・・どれもこれも、日本人が忘れ果てた美点である。人と人とが何かを為すとき、この「一つに賭けるストイックさ」は、封建的・前時代的ではあるが、是非必要なことかも知れない。それを持っていのが、女性の鬼コーチというのが皮肉と言えば皮肉ではあるが。