ロンバケの刷り込み


大瀧詠一「Velbet Motel」


夏、海の日、暑い=大瀧詠一の図式。リアル世代には一生のすり込みだ。


ロンバケhttp://www.amazon.co.jp/dp/B00005G3F6は、記憶が正しければ私がお江戸で一人暮らしを始めたその年に発売されたはず。アパートの部屋でとにかく良く聴いた。ナイアガラ・トライアングルで知られた大瀧氏が、遊び無しで真面目に作ったアルバムということで画期的だった。「君は天然色」は日本ポップス史上稀な傑作で、必ずチャートの1位になると、仲間にふれ回っていた。


あまり間を置かずして、山下達郎の「FOR YOU」http://www.amazon.co.jp/dp/B00005UD3X が出た。こっちも青いイラストジャケで、内容も大傑作だった。もちろんこれも聴き倒した。


山下達郎「music book」


曲作り、演奏ももちろんだが、この2枚はとにかく「音が良」かった。今まで聴いて来た日本のポップスは、数々の洋楽のアルバムに比べて、あのユーミンのアルバムですら、音質はショボかった。のが、この2作品で一気に音が良くなった気がした。エコー感とかエフェクトの感じとか。ミックスダウンはただ、演奏のバランスを取るだけじゃなく、音を「創る」んだということを、思い知らせてくれたアルバムです。ただそれ以降、ミュージシャンはミックスの難題を抱え込む事にもなるのだが。


80年代初頭はバブルの始まり。ハマトラ・サーファーがはびこり、東京のプチ金持ちの若者が軟派な青春を謳歌していた。象徴としてこの音楽は有った。湘南までのドライヴミュージックとして女の子を助手席に乗っけて、これを掛けて走ったヤツは数限り無く居るだろう。同世代でもモテない私は、ひがんでやっかんで攻撃しておったが。


そんな世相の中で、この音楽が軟派な小道具に使われ、消費され棄てられて行くのは違うと思ったのだ。さわやかな海風景の詞で埋まってはいるものの、作っている本人達は絶対海になんて行きそうも無い「洋楽オタク」(笑)そのマニアックな音楽愛を、理解して聴かないとダメだと思ったのだ。今考えるとまったく余計なお世話なのだが。


あれから三十年が経ち、今ようつべで「懐かしい」と当時の思い出を語るカキコミが多数掲載されている。大瀧も達郎も棄てられるどころか、皆の胸に大事に仕舞われていた。これでよかった。音楽はマニアのための物のじゃない。軟派な青春の思い出でもいい。聴いて慰められた事実は、一人一人の胸から動かないから。