「アンデスの声」

・・・・皆さんは「アンデスの声」というのをご存じでしょうか。これは、かつて南米エクアドルから放送されていた、日本語ラジオ短波放送の番組名です。南米各地の日本人移民者のために、やはり移民で行かれた尾崎一夫・久子さんご夫妻によって、三十数年間毎日欠かさず放送されていました。

アンデスの声・HCJBラジオ日本語サイト
http://japanese.hcjb.org/index.html

・・・・この放送が結構有名になったのは70年代中期。当時の中高校生の間で「短波放送聴取ブーム」というのがあったんです。遠い異国から発信される放送を受信して手紙を書くと、「BCLカード」と呼ばれる受信証明カードが貰えたのです。マニアックな中高生の男の子たちは、そのカードのコレクションを集め、自慢にしたかったんですね。で、その海外短波放送聴取の、入門コースが「アンデスの声」だったんです。まずはこの放送を捕まえることが出来て初めて、他の海外放送局に挑めるぞ、みたいな位置づけだったのですね。

ただ放送をしている尾崎さんご夫妻は、日本の当時のラジオオタク達の間で、そんなブームが起きていたことなどつゆも知りません。もとより南米各地の移民者向けの放送ですから、当時日本の子供達から来た大量の「受信できました、カードほしいです」の手紙に、随分当惑したのではないかと思います。

で、昨晩、国営放送テレビで、その「アンデスの声、尾崎夫妻」のドキュメント番組が放送されました。どうやらもう10年以上前の再放送のようです。放送の様子、リスナーからの手紙を丹念に読み整理するご夫妻の様子が淡々と写し出されていました。遠い異国で、三十年もこういう地道な放送を、それこそ一日も休まず続けてきたのは、なかなかにすごいなと感動しました。

リスナーである日系移民の方々が番組あてに送ってくる、手紙がまた感動します。皆それこそ便せんにビッチリと、苦労して開拓開墾をして来た様子、楽とは言えない生活、そして強烈な日本への郷愁を、書き綴ってきます。まさに人生がつまっている手紙で、これを受け止める方も大変なキャパシティを要求されると思います。その手紙に、尾崎さんご夫妻は丹念に返事を書いていく。頭が下がる思いでした。

この「アンデスの声」は、2000年に一旦終了し、尾崎さんご夫妻はアメリカのシカゴに移られました。しかし放送再開を望む声は強く、今度はオーストラリアの放送局経由で番組を再開しようとなった矢先の昨年夏、奥様がご逝去されたそうです………。残された一夫さんは一人「アンデスの声」を再開。現在シカゴの自宅スタジオからネット回線を経由して、毎日とはいかないものの週一回、ちゃんと放送しているそうです。

インターネットの時代。ラジオ短波はもはや役目を終えた物かも知れません。しかしどうでしょう。バナー広告がはびこって、意味のない宣伝媒体と化そうとしているWEBに、この「アンデスの声」の、人と人とをつなぐ心、メディアとしての良心を、もう一度取り戻せないモノでしょうか。